STAKEHOLDER INTERVIEWS
グローバルヘルスR&Dに関わる
ステークホルダーへのインタビュー
この5年で日本が変わったこと
今後日本と世界が進む未来
FUNDING
02
ハナ・ケトラー
ビル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバルヘルス部門
ライフサイエンスパートナーシップ
シニア・プログラム・オフィサー
“製品開発への資金提供という観点では日本の存在感はありませんでしたが、官民パートナーシップという形でGHITへの支援を決めたことが、この5年間の最大の変化だと思っています。”
ビル&メリンダ・ゲイツ財団について
ビル&メリンダ・ゲイツ財団(以下、ゲイツ財団)にはいくつか特徴があります。一つ目は、結果を出すことにこだわっているという点、つまり、最終的に実際に使える新薬のような成果を追求している点において、他にない存在だと思います。ゲイツ財団は、研究を現実的な成果に変えることに注力しています。また、私たちは、科学、研究、能力開発などを支援する他の機関を補うような形で、資金提供や投資を行っています。
二つ目は、長期的な視野に立って、リスクを負う覚悟があるという点です。ゲイツ財団では、新薬の開発が失敗するリスクを考慮して、個別の一つの製品に投資するではなく、それらを統合した製品群(ポートフォリオ)に対して投資する場合がよくあります。例えば、結核に対する解決策を求めている場合、特定の結核の治療薬だけに資金提供するのではなく、複数の解決策に対して資金提供をするのです。
三つ目は、ゲイツ財団は、最適・最良の学術機関、NPO、企業、またはそれらの組み合わせを探し求めています。柔軟性があり、多様なパートナーと協働することも、ゲイツ財団の独自性としてあげられると思います。
最後に、支援の方法にも様々なやり方があることも特徴的です。従来の資金提供機関は、パートナー機関の選択や、資金提供時の期間や目標に関して、柔軟性に欠けるところがありました。これに対し、ゲイツ財団は例えば、研究補助金、直接投資、ローン貸与などの方法を用いて様々な団体を支援しています。このような点が、従来の他の機関とは異なるものだと理解しています。
私が今申し上げたことは、開発途上国で蔓延するマラリア、結核、顧みられない熱帯病、その他の腸管感染症など、ゲイツ財団にとって優先順位が高い疾患群への支援に該当するものです。
グローバルヘルスの製品開発(グローバルヘルスR&D)に関する問題点は何だと思いますか?
グローバルヘルスに関する様々な資金提供に関しては、一般的な健康・医療に関する研究開発と同様に、政府からの資金提供は研究開発の初期段階に集まる傾向があります。市場が存在する場合には、投資家やベンチャーキャピタルが企業に資金を提供し、優れた科学・学術のアイデアを技術や製品に応用する支援を行います。そして、多国籍企業が製品を市場へと導入します。このように、政府等による非営利活動への投資と、営利活動への投資とが連続しています。
一方、グローバルヘルスR&Dの場合も、基礎研究への資金提供は数多く存在します。例えば、米国国立衛生研究所(NIH)や、他国のNIHに相当するような機関の多くが、グローバルヘルスR&Dへの研究支援を行っています。他には、科学的発見という観点から、研究価値の探索を行う英国のウェルカムトラストなどもあります。
伝統的に、グローバルヘルスR&Dは、商業的な利益が見込めないため、誰も基礎研究からその先の製品開発を行うことはありませんでした。すでに存在する製品を活用することも、薬事承認の取得を支援することもなかったのです。民間のベンチャーキャピタル、多国籍企業、小規模なバイオテック企業などの投資家は、グローバルヘルスR&Dには基本的に関心がなく、活動を推進しようとはしてきませんでした。もし資金を集めることができたとしても、概念実証を行う第二相試験以降、製品の商業化に向けた段階が最大の難関となります。
ゲイツ財団はこうした課題にどのように取り組んでいるのですか?
こうした課題を解決するために投資を行っているのは、ゲイツ財団だけではありません。ゲイツ財団は、優れた研究に焦点を絞って、それを推進するだけではなく、実際に製品化することや、最良のパートナーを特定することを重視しています。そのため、私たちは自問自答を繰り返しています。例えば、「創薬のバリューチェーンから、プロジェクトや製品をどうやって実現するのか?」「ゲイツ財団の資金を最大限に活用して、どうやって他の資金提供機関からの協力を得られるか?」「研究開発には全く資金提供を行わない従来型の機関や、投資対効果が低いためにリスクを取るのを嫌う民間投資家の意識を変えるにはどうすれば良いのか?」といったことです。ゲイツ財団は、独自の資金を提供できる立場にありますが、あらゆることに資金を提供できるわけではありません。従って、他のパートナーとの協業の可能性を探ることも重要なのです。
私たちが求めている資金提供機関についてはよく話題に上ります。なぜなら、そういった、ビジネスを目的にする資金提供機関は開拓者としての地位をすでに確立しており、利益を目的とする投資家たちに参画してもらうことは非常に有益だと思います。彼らは、資金提供を受ける機関にどのような能力があるかを監督・評価し、彼らに結果責任を求めます。リスクの評価や管理の面で優れているのです。このように、多種多様な資金提供機関を集めることは極めて重要であり、ゲイツ財団はそうした機関の参画を促すことを得意としています。
ここ数十年で世界のグローバルヘルスR&Dの状況はどう変化しましたか?
1990年代後半から2000年代前半にかけて、ゲイツ財団やロックフェラー財団が、官民連携による新薬開発に関して重要な役割を果たしていました。それほど昔のことではありませんが、グローバルヘルスR&Dは、慈善と幸運に頼るしかないという考えが支配的でした。科学界にいる個々の善意、あるいは何か特殊なことを研究している企業、優れた技術やパートナーに恵まれない環境で研究をしている科学者、そういった人々に依存していたのです。
しかし、1990年代半ばに、PDP*(Product Development Partnership)への最初の資金提供が始まったことで状況が変わり始めました。1995年には、最初のPDPとなる国際エイズワクチン推進構想(IAVI)が設立され、それ以降、科学の発展に対してではなく、具体的な製品開発のために、パートナー、研究活動、研究資金などを組織化する動きが始まりました。
※PDP:産官学の連携を通じて治療薬、ワクチン、診断薬などの製品開発、臨床研究など、公衆衛生上の問題解決のために事業を行う非営利組織のこと。
このようなPDPの発展に呼応して、慈善団体による資金提供が始まり、グローバルヘルスR&Dが優先課題として取り上げられるようになりました。さらに重要な変化としては、従来からの資金提供機関であった援助機関も製品開発に関与するようになっていったことです。例えば、製品開発に関して、より成果重視になるにつれて、NIHや援助機関なども健康・開発に関する事業でも成果が強調されるようになりました。例えば、米国合衆国国際開発庁(USAID)、英国国際開発省(DFID)、最近では日本の外務省がGHITを通じて、製品開発への投資が進んでいます。
“GHITの設立により、日本も今では製品開発に対する資金提供国の一つとして認識されるようになりました。そして、さらに画期的だったのは、GHITの製品開発の枠組みでは、日本の機関と海外の機関がパートナーシップを組むことが必須要件になっていることです。”
従来の援助機関はなぜそうしたギャップに対応しなかったのでしょうか?
製品開発に関しては特に動きはありませんでした。今でもそうした機関では、製品開発への投資と、それ以外の、保健システムへの支援、人々の実際の健康、各国内での能力の向上、クリニックの建設、保健システム向上のための能力開発や政府機関への支援を、どのような形で両立させていくのかといった課題があります。
先ほども申しあげましたが、この大きな変化は1990年代終わりから2000年代初期に起きました。IAVIの設立者であるセス・バークリー氏やその他大勢の人たちが、USAIDやDFID、その他多くの従来型の援助機関と交渉して、保健分野における最終的な成果と経済発展を考慮して、製品開発に着目するように促したのです。しかし実際には、援助機関などに長期的なリスクを納得してもらう必要がありました。そこが最大の課題だったと思います。
製品開発に関して、日本の関わり方、役割をどのように見てきましたか?
私はGHIT Fundの観点からしか、日本の役割りについて話せないのですが、私の印象では、製品開発のための資金拠出という意味では日本は後発組でした。ただ、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の創設を主導し、保健システムの強化を促したり、グローバルヘルス全般的に取り組んでいることは認識していました。これらの取り組みは、保健分野での成果を生むために良いことです。
一方で、製品開発への資金提供という観点では日本の存在感はありませんでしたが、官民パートナーシップという形でGHITへの支援を決めたことが、この5年間の最大の変化だと思っています。GHITのビジネスモデルである、財団と民間企業が拠出した資金に対して、政府も資金をマッチングして、成果をレバレッジするという方法は、明らかに日本独自のやり方です。資金調達において民間の資金を利用することを前提要件としている機関はあまり多くありませんし、他に前例がありません。
別の観点としては、GHITの設立によって、日本の創薬能力をグローバルヘルスに対して充分に活用できる機会が生まれたことだと思います。日本企業は、医薬品アクセス(Access to Medicine Index)のランキングに名を連ねてはいましたが、順位は上位ではありませんでした。日本には創薬能力がありながらも、薬の開発に関わる国際機関や非営利組織などの国際的なネットワークの中に入り込めておらず、力が充分に発揮されていない印象がありました。
ところが、GHITの設立により、日本も今では製品開発に対する資金提供国の一つとして認識されるようになりました。そして、さらに画期的だったのは、GHITの製品開発の枠組みでは、日本の機関と海外の機関がパートナーシップを組むことが必須要件になっていることです。この要件によって、日本が努力の成果を外に出せるだけでなく、それらをグローバルヘルスのエコシステムの中で活用し、貢献できるようになったのです。
今後日本に求められる役割とは何でしょうか?
日本は、2017年1月の世界経済フォーラムで設立された、感染症予防のイノベーション連合(Coalition for Epidemic Preparedness Innovation: CEPI)の設立メンバーでもあります。これは、パンデミックを引き起こす可能性のある感染症対策のためのワクチン開発・供給に関する新たなパートナーシップです。日本はG7伊勢志摩サミットでもこうした新たな枠組みを議題として取り上げ、そして新たな製品開発モデルに対して多大な投資を行いました。日本はいったん課題に取り組むと、リーダーとして新たな変革を牽引するという定評があります。GHITの設立はその最たる例だと思いますし、G7やG8、G20などの国際舞台でも大きな貢献をしています。GHITやCEPIへの資金拠出を含めて、日本は有言実行の国だと思います。
“GHITを通じて、日本政府や企業の資金力や技術力など、それぞれの長所を組み合わせることで、グローバルヘルスにおいて必要度が高い製品のポートフォリオを拡充することができると信じています。”
ゲイツ財団がGHITに期待することは何でしょうか?
先ほども申しあげたように、ゲイツ財団では能力に対して資金を提供するのではなく、成果に対して資金を提供しています。GHITを通じて、日本政府や企業の資金力や技術力など、それぞれの長所を組み合わせることで、グローバルヘルスにおいて必要度が高い製品のポートフォリオを拡充することができると信じています。
また、GHITの仕組みは、アカデミアの研究者や民間企業で基礎研究を行う専門家をグローバルヘルスコミュニティに引き入れることにも成功したと思いますし、グローバルヘルスの様々な課題解決のために、日本の基礎研究が実際に貢献することに期待しています。日本の企業、研究機関などの化合物ライブラリーがグローバルヘルスに活用され、実際にその中から進捗が出ていることは喜ばしいことですが、最も重要なことは、基礎研究のみならず、日本の製薬企業がPDPとの連携やグローバルヘルスR&Dに長期的に関わってくれるかどうかです。これはあくまでも、ゲイツ財団の願望に過ぎませんが。
GHITの継続的な投資に対して、製薬企業各社は着実にプロジェクトを進行しています。ですから、私はとても楽観的です。少なくてもプロジェクトが一つでもあれば、各社は継続して参画してくれるのではないかと思っています。今後は、プロジェクトとそのノウハウを知るチームと、プロジェクトを支援するパートナー間の関係を維持できるかが重要となりますが、GHITがそれを支援してくれると期待しています。
日本の機関と海外の機関は以前より連携しやすくなったのでしょうか?
GHITは日本の企業が国際的に活躍をする上で大きな貢献を果たしていると思います。PDPが生まれた初期の頃には、海外の組織にとって、日本の企業とパートナーになることは容易ではありませんでした。また、当初は、日本に眠っていた様々な可能性がありましたし、それらを使って迅速に結果を出すことも可能でした。GHITに参画した日本の製薬企業各社もPDPとパートナーシップを結び、化合物ライブラリーを迅速に提供してくれました。今後は結果を待たなければなりませんが、このような仕組みができたことは素晴らしいことです。
また、GHITが今後改善できることとしては、単に公募を行うだけでは不十分で、それ以上のことが求められているということです。例えば、GHITは、ゲイツ財団のグランドチャレンジを通じて、日本の科学力と起業家をどうつなぎあわせられるかを試す取り組みを行いました。GHITは、第1回グランドチャレンジエクスプロレーション実施の共同者として名乗り出てくれましたが、この経験を通じて、公募することに加えて、ものごとを「翻訳」することの重要性を理解したのではないかと思います。ここでいう「翻訳」とは、言葉を訳すことではなく、どうやれば成功するか、ということを考えることです。ひょっとすると私たちは、グローバルレベルの製品開発の公募に関して若干見誤っていたのかもしれません。研究者間で新たなネットワークを作り、それを支援するようなことを課す投資というのはハードルが高いのかもしれません。
また、基礎研究のために資金提供をするだけでは不十分です。現在、GHITでは、科学者や起業家、研究者向けに、研修会などの機会を提供して、彼らの参画の機会を促しています。こういった本当の意味でのサポートが極めて大切なことだと思います。
“今は、GHITとの連携を通じて、ゲイツ財団と日本の関係は強くなったと思います。”
ゲイツ財団がGHITのパートナーになったことで、財団の日本とのパートナーシップにも影響はありましたか?
ゲイツ財団は、国際協力機構(JICA)とポリオの撲滅を目指して、革新的な資金メカニズムを導入していますし、日本政府とはグローバルファンドや、ワクチンと予防接種のための世界同盟(Gavi)といった国際機関を通じて連携しています。GHITが設立され、ゲイツ財団とGHITが協働することで、私たちは日本との事業に関与する機会が増加し、質も向上しました。その結果、ゲイツ財団がこれまで協働したことのなかった企業との連携が視野に入り、新たな道が開かれたのです。昔は、日本はグローバルヘルスR&Dに関心がないと思われていました。しかし、今は、GHITとの連携を通じて、ゲイツ財団と日本の関係は強くなったと思います。
GHITと日本はグローバルヘルスR&Dをどのように変革していけるでしょうか?
GHITが設立されたことで、日本のグローバルヘルスR&Dの可能性に関して、当初、日本の活動に大きな注目があたりました。ゲイツ財団が次に着目しているのは、GHITはポートフォリオをどのように拡大していくかということです。GHITが次の段階に進み、ポートフォリオが成熟して行く中で、民間企業の関与を今後も維持することができるかどうかがカギです。民間企業は今後もプロジェクトに関わっていくのか、今後も同様の企業から製品開発のプロポーザルを期待するのか。当初は、公募への申請希望者の数もかなりありますが、上位100位までの団体に達したある時点から、今度は別の候補先を探さなければなりません。
さらに、GHITにとっての挑戦は、GHITは「健康へのインパクト」をどれだけ生み出せるのかという、外部からの期待をコントロールし続けていくことです。GHITはグローバルヘルスR&Dの投資機関として、これまで公募を順調に行ってきました。適切なサイズのポートフォリオを構築していますし、疾患や製品は多岐にわたります。製品開発には失敗がつきものであることや、GHITは共同投資を重要視していることを考えると、製品化を必ず実現できるといえるほどまだ十分なポートフォリオというわけでもありませんが、その中でもうまく進んでいるプロジェクトはいくつかあります。こうした実績は、GHITと選考プロセスに関わった選考委員会にとっての功績だと思います。
最後に、GHITは、日本がグローバルヘルスの資金拠出国であり、PDPなどと連携できる製品開発パートナーであるということを世界に示したと同時に、グローバルヘルスR&Dにおける日本政府や日本の製薬企業の存在感を高めたと思います。
“日本が実行していることが成功するか否かは、日本の技術、知見、資金などの資産が、世界の中にどれだけ組み込まるかによって決まると思います。”
ケトラー氏は、特に顧みられない熱帯病に関するロンドン宣言にも大きく関わっていらっしゃいます。グローバルヘルスR&Dのパートナーシップが成功する秘訣は何でしょうか?
パートナー同士がオープンで、お互いをありのままに見ること、限界もインセンティブも、何が効果的なのかも把握していること、それが必須だと私は考えています。つまり、各社のビジネスモデルをよく理解し、そのビジネスモデルとうまく整合するように、グローバルヘルスへの企業の関心を高めるにはどうすれば良いのかを考えるのです。
ここ数年における、ゲイツ財団やパートナーにとっての成果は、投資のインパクトをいかに最大化するかでした。ゲイツ財団も製品開発のための資金を提供することはできますが、団体によってはそれだけでは不十分であったり、全く意味がなかったりします。製薬企業なら、こう言うかもしれません。「そうですね、我々は資金なら十分にありますが、問題は市場が不確かなことです。マラリアの研究開発なんてどうすれば良いのか分かりませんし、ましてやマラリアの専門家ではありません。アフリカで事業をしたこともありませんし、薬事申請のプロセスも全く分かりませんよ。」
どういったリスクがあるのかを理解し始めたら、話し合いの中で適切なツールを議論のテーブルにあげて、連携に向けた関係構築を行うことができます。例えば、ロンドン宣言*を例に挙げると、すでに多くの企業が顧みられない熱帯病の解決に向けて、それぞれが活動を進めていました。製薬産業にとって共通の基盤があれば、各社が何をしているかを知ることができますし、各社の貢献が他社の活動と連携することで相乗効果が期待できますし、現在の課題が何か、今後企業や他のパートナーが取りうるアクションは何かを整理することができるのです。こうした企業間の協業では、共通の目標に向けて多様なパートナーを集め、「この問題をどうやって一緒に解決すれば良いか?」を考えることが必要不可欠です。 20年前とは違い、今ではインセンティブや資金など、企業のグローバルヘルスへの参画リスクを下げる方法がいくつもあります。これらの方法を通じて、開発途上国の貧しい人々のための健康問題を解決するための団体を立ち上げたりすることもできるのです。
今後日本に期待されていますか?
日本の製薬各社には「グローバルヘルスに関して他に何ができるのか?」ということを積極的に検討してもらいたいと願っています。そうした流れがすでに出来ている企業もあるでしょうし、個別のプロジェクトを超えて何ができるのか、グローバルヘルス全般の動きの中で、企業としてどのような功績を残せるのか、そして、グローバルヘルスで成果を挙げるにはどうすれば良いのかを考えている企業もあると思います。
今後の日本のグローバルヘルスR&Dの発展のためには、各社CEOの役割も重要です。本当に優れたパートナーシップでは、マネジメントのトップレベルが組織内のチームを支援して、グローバルヘルスを優先事項として設定し、かつ時間や労力を捧げています。
GHITに参画する日本企業のCEOは、実際にグローバルヘルスの課題に多くの時間を割き、労力を注いでいらっしゃいます。GHITの評議会には各社・各団体が常に出席し、熱心に議論に参加しています。今後リーダーシップの交代があるとしても、グローバルヘルスに対する現在の真剣な姿勢は、各社組織の中で持続していくだろうと私は期待しています。
日本政府は、GHITへの支援を通じて、グローバルヘルスR&Dが重要だということを示してくれました。日本が実行していることが成功するか否かは、かなりの部分、日本の技術、知見、資金などの資産が、世界の中にどれだけ組み込まるかによって決まると思います。日本には、G8やG20などの国際舞台で、こうしたメッセージの重要性を引き続き訴えていって欲しいと思います。
GHITを一言で言うと?
GHITを一言でいうなら「レバレッジ」、つまりインパクトの最大化です。GHITは、様々な資金拠出団体や、日本の専門技術、製品開発能力をレバレッジしています。慈善団体、民間企業、政府によるこのパートナーシップは極めて価値が高く、ガバナンス上の役割においても、パートナーの能力や資金拠出を最適化するという点においても、他の多くの組織との差はここにあります。
本インタビューに掲載の所属・役職名は、2017年のインタビュー公開時のものです。
- 略歴
- ハナ・ケトラー博士(Hannah Kettler, PhD)は経済学者で、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のグローバルヘルスプログラムでライフサイエンスパートナーシップのシニアプログラム役員を務める。グローバルヘルスの製品イノベーションや導入のための資金を確保し、支援政策の環境を整えるためのプロジェクトや助成金のポートフォリオ作成を担当。製品開発では南北両世界の営利企業が重要な役割を果たす。リスクの軽減と財政的インセンティブのデザイン、ビジネスモデルのデザインによって民間企業の関与を強化に携わる。ゲイツ財団に入る前には、カリフォルニア大学サンフランシスコ校でバイオテクノロジーや国際的な健康に関する大型プロジェクトを指揮し、またロンドンの医療経済研究所(Office of Health Economics)では上級産業エコノミストを務めた。
STAKEHOLDER INTERVIEWSARCHIVES
FUNDING
01
山本 尚子厚生労働省 大臣官房総括審議官
(国際保健担当)
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02
ハナ・ケトラービル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバルヘルス部門ライフサイエンスパートナーシップ
シニア・プログラム・オフィサー
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03
スティーブン・キャディックウェルカム・トラスト
イノベーションディレクター
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DISCOVERY
01
デイヴィッド・レディーMedicines for Malaria Venture (MMV) CEO
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02
中山 讓治第一三共株式会社
代表取締役会長兼CEO
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03
北 潔東京大学名誉教授
長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授・研究科長
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DEVELOPMENT
01
クリストフ・ウェバー武田薬品工業株式会社
代表取締役社長 CEO
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02
畑中 好彦アステラス製薬株式会社
代表取締役社長CEO
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03
ナタリー・ストラブウォルガフト顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)
メディカル・ディレクター
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ACCESS
01
ジャヤスリー・アイヤー医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
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02
近藤 哲生国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表
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03
矢島 綾世界保健機関西太平洋地域事務所
顧みられない熱帯病 専門官
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