STAKEHOLDER INTERVIEWS グローバルヘルスR&Dに関わる
ステークホルダーへのインタビュー
この5年で日本が変わったこと 
今後日本と世界が進む未来

FUNDING

01

山本 尚子

厚生労働省 大臣官房総括審議官
(国際保健担当)

“これまで数多くの健康課題に取り組んできた日本だからこそ、世界の健康課題にも積極的に貢献して、リーダーシップを発揮することが求められています。”

山本審議官は、厚生労働省や国連代表部などで、エイズ対策を含むグローバルヘルス分野の政策立案に長きに渡って携わっていらっしゃいます。この分野に携わることになったきっかけについてお聞かせください。

私自身は決してグローバルヘルスの分野での経験は豊富ではなく、10年ごとに国際保健に関係する仕事についています。最初は1992年に米国留学から(旧)厚生省に戻った直後にHIV/AIDS担当となり、その後1994年に横浜で開催されたアジアで初めての国際エイズ国際会議(10th International AIDS Conference)の準備・運営を担当しました。当時、HIV/AIDSの治療薬は限られていて、差別偏見も強かったのを覚えています。そんな環境の中で、世界の医療の専門家や研究者、NGO、患者・感染者の団体など、様々な方との協働を通じて、治療薬の開発と平等なアクセスの保障、予防教育、患者・感染者やセクシャルマイノリティの人権擁護、エイズ孤児への支援など、グローバルな視点を持って、地域の課題に取り組む連帯の力を実感しました。

このときに出会った世界の友人たちとは、それから10年後、ニューヨークの国連代表部に勤務した時に再会し、今でも様々な場面で助けられています。そして今、今度は国際保健医療展開担当審議官という立場で国際保健を担当しています。

現在の審議官というお立場では、グローバルヘルスに関してどのような任務を担っていらっしゃるのでしょうか?

申し上げたように、現在は、国際保健医療展開担当審議官として、2016年に日本が議長国を努めたG7伊勢志摩サミットや、国連総会をはじめ、国際連合エイズ合同計画(UNAIDS)やグローバルファンド(Global Fund)理事会等に出席しています。国際保健分野における様々な課題を解決するために、世界の政府関係者、専門家との協議を通じて、日本としての考え方を伝え、国際社会での議論をリードし、あるいは意見の異なる国をまとめることに尽力しています。

また、2016年12月にロシア連邦保健省と医療・保健分野の協力覚書の締結への調整をするなど、様々な国との二国間協力の枠組みなど通して、日本の医療技術を世界に展開するという任務も担っています。

日本ではあまり問題にならない感染症・熱帯病の製品開発(グローバルヘルスR&D)に関して、厚生労働省が資金を拠出した背景にはどういった理由があったのでしょうか?

我が国の製薬産業は、欧米と並ぶ新薬の開発技術を有しています。そのため、資源が乏しい我が国が、経済国家として成り立つための重要な産業として期待されており、創薬環境の整備と国際競争力の強化が求められています。一方、国際保健分野においては、開発途上国を中心に蔓延する顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)や結核、マラリア等の治療薬の研究開発が、先進国において需要が少ない等の理由から充分になされず、開発されたとしても医薬品へのアクセスの格差が課題となっていました。

そこで、日本の製薬産業の優れた研究開発力を活かして、開発途上国向けの医薬品などの研究開発と供給支援を官民連携で促進することで、国際保健分野での貢献を行うとともに、日本の製薬産業の海外進出を下支えすることによって、日本の製薬産業の成長・発展、ひいては国内の経済活性化を目指して、GHITに投資することとなりました。

そして何より、「健康」は人の幸せの根幹で、国を豊かにする上での礎です。これまで数多くの健康課題に取り組んできた日本だからこそ、世界の健康課題にも積極的に貢献して、リーダーシップを発揮することが求められています。

“この過程において、官民間の信頼も醸成されてきたと感じています。”

山本審議官の目からご覧になって、これまでのGHIT Fundの実績や進捗について、資金拠出パートナーのお立場からどのように評価されますか?

GHITへの資金拠出の観点から申し上げると、官民パートナーシップというのは我々にとってなじみの薄い枠組みでした。しかし、この4年を振り返ると、CEOのスリングスビー氏をはじめ関係者の努力により、着実に資金確保がなされました。そして、現在、多くの企業、国内外の研究機関等が参画した多数のプロジェクトに投資がされています。

医薬品の開発には時間がかかるものですが、GHIT は投資案件へのフォローアップをきちんと実施しています。投資案件の中には、数年で患者さんのもとへ届けられる見込みの薬も複数あり、着実に成果をあげていることを高く評価しています。そして、この過程において、官民間の信頼も醸成されてきたと感じています。

2017年1月、エボラ出血熱をはじめ、アウトブレイクを生じる可能性の高い重大な感染症のワクチン開発を目指すCEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations:感染症流行対策イノベーション連合)が正式発足しました。我々も資金拠出を決定し、創設メンバーとなりましたが、GHITの実績、成功体験が日本の積極的な関与を決めるうえで大きな影響を与えたと考えています。

一方で、今後の課題としては、GHITの投資案件の採択決定に至る過程や、評議会、理事会での議論が、外部からは見えにくいとの指摘もあり、一層の透明性の確保が必要だと考えています。そして、これは我々の課題でもありますが、国民にもっとGHITの活動を知ってもらうように、GHITとともに私たちも努力したいと思います。

GHITの設立は、日本のグローバルヘルスR&Dにどのような影響を与えたと思いますか?

GHITの特徴としては、研究開発実施にあたって、我が国と海外機関との連携を重視している点、そして、我が国にとってなじみが少ないにも関わらず国際保健の課題であるNTDsを対象としている点が挙げられます。この2つの点において、従来の研究費による開発助成とは大きく異なっています。この新しい枠組みにより、我が国の製薬企業、研究機関、および大学等が、日本国民の健康だけでなく、国際保健にも貢献しうる技術力を有していることを国内外に示すことができたのではないでしょうか。

この成功体験を基盤に、多くの企業、研究機関が国際保健の課題に関心を持ち、日本のグローバルヘルスR&Dを更に進めることにつながることを期待しています。

今後、グローバルヘルスにおいて、日本から革新的な新薬開発を行うために、どのようなアプローチが必要でしょうか?

新薬開発は専門性が高く、多くの知恵を集め、対話を通じて進めていく必要があります。従って、日本から革新的な新薬開発を今後も継続的に行うためには、企業の努力はもちろんですが、多くの専門家やNGO、当事者が関わる必要があります。また、市場のメカニズムが働きにくい感染症の新薬開発では、いわゆるプッシュとプルなどの様々な政策・環境整備が必要になります。国民にもこの点を理解して頂いて、新薬開発に税金を投資していくことも重要だと思います。

加えて、革新的な医薬品に対し、各国の薬事規制当局による審査・評価が、科学的根拠に基づいて行われるよう、世界的に調和された基準作りに日本が積極的に取り組むことも重要です。さらに、革新的な医薬品が現場でより有効に活用されるよう、医薬品を使用する中低所得国の保健システムの構築を、日本の経験を活かし支援することも必要不可欠です。

このように、研究開発段階のみならず、薬事審査から流通・使用まで円滑に進むような環境整備が重要であると考えています。

“具体的な成果を一つ一つ積み重ねていくことが、GHITへの信頼醸成と、日本のイノベーションの推進につながっていくと考えています。”

GHITは次の5年間、日本のイノベーションを推進するためにどのような役割を果たすことが求められるでしょうか?

GHITの投資によって、現在複数の医薬品候補が臨床研究も出口に近い段階にあります。これからの5年間は、これらの成果を具体的な製品としてNTDs、結核、マラリアに困っている人たちへ届けることが必要です。そのためには、希少疾病用医薬品指定制度や、日本の薬事規制当局であるPMDAが実施している治験相談制度を積極的に活用し、効率的かつ迅速な臨床開発を進める必要があります。同時に、GHITとともに我が国が拠出している国連開発計画(UNDP)の「新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(ADP)」とも一層の連携を図り、製品を速やかに現地に届けるため、中低所得国における体制整備を行っていく必要があります。 GHITが、これまでの成果を更に発展させ、日本発の製薬技術を研究所から感染症に困っている人々に届けるという、具体的な成果を一つ一つ積み重ねていくことが、GHITへの信頼醸成と、日本のイノベーションの推進につながっていくと考えています。

本インタビューに掲載の所属・役職名は、2017年のインタビュー公開時のものです。

略歴
山本 尚子
厚生労働省大臣官房審議官
1985年、北海道立札幌医科大学卒業。同年厚生労働省入省。厚生省保健医療局エイズ結核感染症課長補佐、佐世保市保健環境部長、千葉県浦安市助役、外務省国際連合日本政府代表部参事官、防衛省人事教育局衛生官、厚生労働省健康局疾病対策課長、2015年10月より現職。

STAKEHOLDER INTERVIEWSARCHIVES

FUNDING

01

山本 尚子厚生労働省 大臣官房総括審議官
(国際保健担当)
#

02

ハナ・ケトラービル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバルヘルス部門ライフサイエンスパートナーシップ
シニア・プログラム・オフィサー
#

03

スティーブン・キャディックウェルカム・トラスト
イノベーションディレクター
#

DISCOVERY

01

デイヴィッド・レディーMedicines for Malaria Venture (MMV) CEO
#

02

中山 讓治第一三共株式会社
代表取締役会長兼CEO
#

03

北 潔東京大学名誉教授
長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授・研究科長
#

DEVELOPMENT

01

クリストフ・ウェバー武田薬品工業株式会社
代表取締役社長 CEO
#

02

畑中 好彦アステラス製薬株式会社
代表取締役社長CEO
#

03

ナタリー・ストラブウォルガフト顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)
メディカル・ディレクター
#

ACCESS

01

ジャヤスリー・アイヤー医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
#

02

近藤 哲生国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表
#

03

矢島 綾世界保健機関西太平洋地域事務所
顧みられない熱帯病 専門官
#

POLICY

01

マーク・ダイブル世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)
前事務局長
#

02

セス・バークレーGaviワクチンアライアンスCEO
#

03

武見 敬三自由民主党参議院議員
国際保健医療戦略特命委員会委員長
#