STAKEHOLDER INTERVIEWS
グローバルヘルスR&Dに関わる
ステークホルダーへのインタビュー
この5年で日本が変わったこと
今後日本と世界が進む未来
ACCESS
01
ジャヤスリー・
アイヤー
医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
“必要な医薬品、つまり治療薬やワクチン、診断薬、治療全般を利用できない人々がおよそ20億人います。”
「医薬品へのアクセス」とは何でしょうか?
世界で50億人ほどの人たちは医薬品を利用できますが、一方で、必要な医薬品、つまり治療薬やワクチン、診断薬、治療全般を利用できない人々がおよそ20億人います。こうした医薬品へのアクセスに関しては、「様々な状態にある人々が医薬品を入手できるようにすること」、そして「様々なコミュニティで利用できるようにすること」が大切です。安価で優れた品質の医薬品を、誰もが利用できるようにしなければなりません。特に、農村部やジャングル、島嶼部など都市部ほど医療へのアクセスがない地域に暮らす人々でも医薬品を使えるようにしなければなりません。こういった理由から、医薬品へのアクセスは、グローバルヘルスの分野において重要な課題となっています。
Access to Medicine Foundationはどのような活動をしているのでしょうか?
Access to Medicine Foundation(以下、医薬品アクセス財団)は2003年、ウィム・リーレヴェルド氏により設立されました。彼は日頃から激しく競合しあう製薬業界は、世界の医薬品アクセスの向上のためにも切磋琢磨できるのではないかと考えました。医薬品アクセス財団は、Access to Medicine Index(医薬品アクセス貢献度)という指標を用いて、研究開発志向の世界の大手製薬企業20社を、医薬品へのアクセスという視点から調査・評価し、企業のランク付けを行っています。このランキングは2年ごとに発表されています 。
新たな指標:Access to Vaccines Index
Access to Vaccines Index(ワクチンアクセス貢献度調査)は、医薬品アクセス財団による2017年3月に発表されたワクチンへのアクセスに特化した新たな指標。ワクチン開発に取り組む各社が、ワクチンに関する問題をどれだけ改善したかを示す世界初の指標となる。ワクチンアクセス貢献度調査では、医薬品アクセス貢献度調査よりも広範囲の病気を対象にしており、ワクチン開発に加えて、ワクチン市場におけるサプライチェーンや価格設定なども評価対象としている。
その医薬品アクセスの向上のために、民間企業、政府、NGOといった各セクターに求められている役割りは何ですか?
医薬品へのアクセスに関しては、それぞれのセクターにはっきりとした役割があります。民間企業、特に製薬企業はワクチンや医薬品の開発・製造を行っているため、良質な医薬品を安価で入手しやすいものにし、全世界の人たちがアクセスできるようにする必要があります。
政府は、保健医療が最重要課題であることを認識し、誰でも利用できるようにしなければなりません。特に、政府は世界的な援助や貿易の一部を担っているので、各地域での医薬品アクセスを担保する責任があります。
NGOも多くのプログラムを実施し、各コミュニティに必要な医薬品を受け入れてもらうために重要な役割を果たしています。このように、各セクターには実に様々な役割を果たしてもらわなければなりません。そして、私たち一人ひとりにも、 健康に努め、医療サービスを受け、医薬品を正しく使うという大変重要な役割があります。
製薬業界は医薬品アクセスへの貢献において重要な役割を担っているとのことですが、日本の製薬業界の近年の取組みをどのように見ていますか?
日本の製薬業界も徐々に医薬品アクセスへの貢献に向けて動いています。背景には、安倍首相の発言がこうした動きをスタートさせたことがあると考えています。彼は、保健医療は国内だけではなく、国境を超えたグローバルな課題だと述べています。
そのような背景で始まった日本の製薬企業の取り組みは、熱帯病などの貧困と密接に関連した病気に関する取組みにおいて成果がすでに出始めています。さらに、日本の製薬企業は開発途上国の医療の現場やコミュニティの能力開発にも積極的に取り組んでいます。私たちが医薬品アクセス貢献度調査の中で評価の対象にしている日本の製薬企業は4社ありますが、いずれもこうした能力開発を全世界で実践しています。また、最近の傾向としては、低中所得国のビジネスや経済成長に主眼を置いた取組みが増えてきています。
また、日本の製薬業界全般の特徴の1つが、政府と民間企業が連携して医薬品アクセスに取り組んでいるという点です。日本政府関係者も医薬品アクセスの重要性について発言しています。特に、薬剤耐性、健全な高齢化(healthy aging)、非感染症などはその代表例です。さらに、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジについても活発な議論が行われており、それを受けて製薬業界も、医薬品アクセスに関する戦略を積極的に練り直すなど、年々、企業自身の役割を強化しています。
“日本の製薬業界も徐々に医薬品アクセスへの貢献に向けて動いています。”
医薬品アクセスの向上という点で、日本独自の貢献としてはどのようなものがありますか?
日本は、医薬品アクセスの向上に貢献するために、世界の中でも良い位置づけにあると思います。イノベーションを探求する文化も根付いています。そのようなDNAは製薬企業にも組み込まれています。イノベーションによって医薬品アクセスを向上するための解決策を提供することもできるでしょう。そして何より、日本の製薬業界は日本国内において強い信頼を得ていると思います。これは 、世界の他の国と比べても稀なことです。
また、民間企業と政府による官民パートナーシップは強力ですし、長期にわたるパートナーシップも多数存在します。様々な国際的な機関と連携している国際協力機構(JICA)やGHITなどのプラットフォームを通じて、製薬業界や大学などが医薬品アクセスの向上に向けた活動を展開している点も、日本の製薬業界の強みと言えるでしょう。
日本の製薬業界はどのような成果を上げているのでしょうか?
医薬品アクセス貢献度調査の評価対象としている日本企業4社の成果を実例として紹介します。
アステラス製薬株式会社は、顧みられない熱帯病に関する各種のプロジェクトに参加しています。プラジカンテルを用いた住血吸虫症の小児用治療薬の開発においても大きな成果を上げています。さらに、顧みられない熱帯病やそれ以外の熱帯病関連の治療薬開発プロジェクトにも以前から参画していいます。
Access to Health
エーザイ株式会社は、リンパ系フィラリア症の治療薬DEC(ジエチルカルバマジン)を提供するパートナーシップに参加しています。同社はこのDECを合計22億錠製造し、世界保健機関に無償提供しています。これ以外にも、全世界で顧みられない熱帯病に関する国際的なプロジェクトに参加しています。
Eisai ATM Navigator
第一三共株式会社は、インド、タンザニアなどで移動診療サービスを展開し、基礎的なヘルスケアの提供や母子保健医療活動に貢献しています。また、中国のある省で、発達障害への対策にも関わっています。
医療アクセスの拡大
武田薬品工業株式会社は、医薬品アクセスの向上に関する戦略を拡大しています。ケニアのナイロビではオンコロジー(腫瘍)イニシアチブや、顧みられない熱帯病関連の医薬品開発、麻疹やポリオのワクチン開発にも貢献しています。さらに、低中所得諸国において主要医薬品の価格を入手しやすいようにするという試みを始めています。
Access to Healthcare
“低中所得国に暮らす人々に、確実かつ迅速に製品を届けるために、製品開発パートナーとともに、薬事承認、価格設定、特許などのアクセスプランについて事前に協議を始めていることは特筆すべき点です。”
上記の4社以外の日本の製薬企業各社にどのような役割を期待していますか?
医薬品アクセス貢献度調査では、世界のグローバル製薬企業20社を評価対象にしています。これは、その20社を起点に更に多くの企業に関わってほしいという狙いからです。低中所得国における非感染症の医薬品のアクセス向上やヘルスケア全般の改善では、先ほどの4社以外の日本企業も大きな役割を果たしています。また、製薬企業だけではなく、医療機器やヘルスケア関連企業もこのような取り組みに参加しています。日本には、低中所得国における抗生物質のアクセス改善や適正な使用に貢献できる技術や資源のある企業が数社あります。
医薬品アクセス財団では日本の製薬企業4社の評価を続けています。その評価を踏まえると、医薬品アクセスを向上させるには何が必要なのか、他社の理解を促すうえでもこの4社は強力な役割を果たしてくれています。世界的な課題である医薬品アクセスの向上に関して、製薬企業はどのように戦略を立て、どのような役割を果たせば良いのかという課題に対し、医薬品アクセスの向上のために製薬企業がどのような取組みを行っているのかを理解しようとしている段階です。私たちは、GHITのパートナーでもある塩野義製薬や中外製薬といった製薬企業とも話し合いの機会を持っています。
医薬品アクセスの向上において、GHITが果たす役割とは何だと思いますか?
GHIT は、政府と民間企業と協力しながら、熱帯病などの貧困と密接に関連した病気の医薬品開発において、すでに大きな役割を果たしています。GHITの役割は、単に主要関係者から十分な資金を確保するということに留まらず、政府、民間企業、公的機関の各主要関係者をまとめあげ、治療薬やワクチン、診断薬の開発を促進させる役割も果たしています。世界で求められている医薬品の研究開発を推進するには、官民連携という仕組みは極めて重要です。この点に関して、GHITに参画する企業の活動は、医薬品アクセス調査の中でもきちんと評価したいと思っています。
そして何より、GHITは将来医薬品が開発されることを見越して、低中所得国に暮らす人々に、確実かつ迅速に製品を届けるために、製品開発パートナーとともに、薬事承認、価格設定、特許などのアクセスプランについて事前に協議を始めていることは特筆すべき点です。
また、薬剤耐性のための医薬品開発についても評価できるでしょう。 余談ですが、現在、医薬品アクセス財団は、薬剤耐性に関する新たな指標の開発にも取り組んでいます。この指標は、公衆衛生上、抗生物質の適正使用に関して、製薬企業がどの程度適切な手段を講じているかを示すものになります。
“日本の役割をさらに強化し、加速させ、今まで以上の成果を生み出してほしいです。”
医薬品アクセスをさらに向上するために、今後求められるのは何でしょうか?
現在、世界にはいくつもの課題が存在しています。これらの全てを解決するには何年もかかるでしょう。そのためには、日本、日本の製薬業界、そしてGHITが医薬品アクセスの向上のために、それぞれが成長して、より強くなることが大切です。今後も軌道に乗っている医薬品開発を続けていくこと、非感染症の治療や必須医薬品のアクセス向上にも関与することを願っています。
そして、低中所得国でのユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推進する必要があります。先程も申し上げたように、日本にはイノベーションを探求するDNAや、グローバルヘルスに貢献しようという機運があります。また、日本には課題を解決できるその実力と潜在能力があります。是非とも、日本の役割をさらに強化し、加速させ、今まで以上の成果を生み出してほしいです。
アイヤー氏がグローバルヘルスや医薬品アクセスといった問題に取り組むようになった「きっかけ」は何だったのでしょうか?
私はずっと、グローバルヘルスの専門家として仕事をしてきました。シンガポール出身ですが、シンガポールはどちらかといえば裕福な国です。けれども、周辺諸国では社会経済状況がシンガポールとは大きく異なります。そのため、医薬品アクセスはあらゆる人々にとっての問題で、かつ国境を越えた問題だと理解するようになりました。
医薬品アクセスの世界に入ったのは、純粋に、製薬業界の果たす役割がとても大事だと思っていたからです。製薬企業はイノベーションを生み出し、命を救う治療薬、ワクチン、診断薬を作ることができます。そして、製薬企業は企業活動の 川上で研究などの重要な役割を担いながら、川下にある医薬品の供給やアクセスにも大きなインパクトを与えます。こうした理由から、私はこの問題に取り組むようになりました。
本インタビューに掲載の所属・役職名は、2017年のインタビュー公開時のものです。
- 略歴
- ジャヤスリー・アイヤー
医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
医薬品アクセス財団エグゼクティブ・ディレクター。同財団の戦略、関係者との交渉、研究プログラムなどを統括し、スポークスパーソンとして製薬業界の変革にも積極的に取り組む。2013年同財団に参画。研究部門のトップとして、医薬品アクセス調査チームの編成や方法論の開発・応用を指揮。グローバルヘルスと製薬業界の領域に12年間携わる。感染症や腫瘍に関する新薬開発のための官民連携の創設・運営等にも関与。他にも、NGO、学術界、シンクタンクなどでの勤務経験もあり、European Solutions Enterprise for Neglected Diseasesの共同設立者でもある。
STAKEHOLDER INTERVIEWSARCHIVES
FUNDING
01
山本 尚子厚生労働省 大臣官房総括審議官
(国際保健担当)
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02
ハナ・ケトラービル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバルヘルス部門ライフサイエンスパートナーシップ
シニア・プログラム・オフィサー
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03
スティーブン・キャディックウェルカム・トラスト
イノベーションディレクター
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DISCOVERY
01
デイヴィッド・レディーMedicines for Malaria Venture (MMV) CEO
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02
中山 讓治第一三共株式会社
代表取締役会長兼CEO
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03
北 潔東京大学名誉教授
長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授・研究科長
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DEVELOPMENT
01
クリストフ・ウェバー武田薬品工業株式会社
代表取締役社長 CEO
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02
畑中 好彦アステラス製薬株式会社
代表取締役社長CEO
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03
ナタリー・ストラブウォルガフト顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)
メディカル・ディレクター
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ACCESS
01
ジャヤスリー・アイヤー医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
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02
近藤 哲生国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表
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03
矢島 綾世界保健機関西太平洋地域事務所
顧みられない熱帯病 専門官
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