STAKEHOLDER INTERVIEWS
グローバルヘルスR&Dに関わる
ステークホルダーへのインタビュー
この5年で日本が変わったこと
今後日本と世界が進む未来
DEVELOPMENT
01
クリストフ・ウェバー
武田薬品工業株式会社
代表取締役社長 CEO
創薬の分野で、日本企業にはどのような特徴があるとお考えですか?
日本は長年にわたり、創薬の分野を牽引してきました。武田薬品の設立は1781年であり、世界最古の製薬企業の一つです 。創薬を含むライフサイエンス分野において、当社は、単なるビジネスとしての関わりを超え、保健医療や健康増進について長期的な視野を持った活動を展開しています。日本では、多くの民間企業や学術機関が保健医療分野への貢献に積極的に関わっており、さらに、創薬開発が急成長しているため、非常にダイナミックな環境にあります。
感染症とグローバルヘルスは、武田薬品のビジョンや中核的ビジネス戦略の中で、どのように位置付けられていますか?
当社は先進国と新興国の両方で事業を展開しています。当社の重点領域は、消化器系疾患、がん、中枢神経系疾患の非感染症領域ですが、感染症がもたらす世界的な影響についても重要性を認識しています。そのため、グローバルヘルス分野に対する投資も積極的に行っています。
当社は、あらゆる人々の健康に貢献するという強い使命感のもと、世界の70カ国以上でビジネスを展開していますが、この想いこそが、当社がまさにグローバルヘルスに取り組む動機であり、推進力なのです。当社のワクチン部門は、デング熱、ノロウイルスといった、特に開発途上国に暮らす人々の健康に大きな影響を及ぼす病気に対するワクチン開発に注力しています。
武田薬品のグローバルヘルスへのコミットメントは、製品開発主導の投資と、企業の社会的責任(CSR)の両面から進められていますが、どのような考えのもと、2種類の活動を行っているのでしょうか?
先ほどもお話ししましたとおり、製品開発においては、ワクチン部門が数多くのプロジェクトを進めています。また、同時に、当社のCSR活動はヘルスケアにおける社会的な課題に取り組む活動にフォーカスしており、製薬企業として培った知見を活かしながら活動しています。当社はG8/G7各国や国連とともに、早い段階からヘルスケアのアクセスの問題やグローバルヘルスの課題等に取り組んできており、グローバルヘルスの分野でイノベーションを創出し、リーダーシップを発揮してきました。いずれの戦略においても、当社は世界のグローバルヘルスの向上に積極的に貢献するため、医薬品アクセスを向上させる様々なパートナーシップに参画してきました。
Access to Healthcare 保健医療へのアクセス向上を目指して
“GHITは非常に革新的な資金拠出のモデルです。開発資金が不足している病気の治療薬やワクチンの開発を促進する今までにない枠組みです。”
武田薬品にとってGHITへの参画は、どういった意味で「戦略的な投資」なのでしょうか?
GHITは非常に革新的な資金拠出のモデルです。開発資金が不足している病気の治療薬やワクチンの開発を促進する今までにない枠組みで、設立以降、大きな成功を収めてきました。当社がこのモデルに投資を行い、かつ、製品開発そのものにも貢献することは、当社にとって二つの観点で大きな意味があります。一つは、当社にとってグローバルヘルスが重要であること。もう一つは、日本にはGHITを成功に導く強力な資質があることです。
武田薬品がGHITに参画したことで、グローバルヘルスの製品開発(グローバルヘルスR&D)に対してどのような影響がありましたか?
製薬企業で働く人は、患者さんや公衆衛生のために役に立ちたいという強い想いがあります。社員が、当社のGHITへの参画や公衆衛生のためのCSRプログラムの支援について知った時、何か感じるものが必ずあるはずです。実際に、当社の社員はGHITや他のグローバルヘルスの案件に積極的に関わっており、それによって多くの刺激を受けています。なぜなら、当社が製薬企業たる所以を意識させられたり、なぜ自分たちが武田薬品で働いているのかという本質的な理由を考えるからだと思います。
グローバルヘルスR&Dと、従来の市場向け製品開発の過程は何が違うのでしょうか?
グローバルヘルスへの貢献としての製品開発のプロセスでは、複数のセクターが横断的に関わり、様々なパートナーが連携することが必要不可欠です。この点において、当社の中核事業での提携とは若干異なります。しかし、医薬品の元になる化合物を設計し、臨床試験(第一相、第二相、第三相)を行うという、製品開発を進める過程自体は基本的に変わりません。 グローバルヘルスへの貢献においては、複数のセクターが連携するプロセスと、通常の製品開発のプロセスが交差し、補完しあうことで今まで解決できなかった感染症の新薬開発が進められます。具体的には、私たちは製薬企業としてのノウハウを提供することができ、また、そのノウハウを国際コミュニティが持つ専門性と融合させることで、患者さんが必要とする新薬を開発し、市場へと送り出すことができるのです。
一つ例を挙げます。武田薬品はメディシンズ・フォー・マラリア・ベンチャー(Medicines for Malaria Venture、MMV)とパートナーシップを結び、抗マラリア薬の開発を進めています。この取り組みは、武田薬品としても画期的な取り組みです。従来、武田薬品にはマラリアに関する専門技術や経験が豊富にあるというわけではなかったのですが、当社が持つ研究および臨床開発におけるノウハウや専門知識を提供することで、現在、抗マラリア薬の開発を進めています。この抗マラリア薬は、アメリカとオーストラリアの3名の教授の共同研究から生まれたものです。これは、グローバルヘルスのニーズに対応するため、組織の枠を越えたパートナーが、各自の専門性を活かしてパートナーシップに貢献するという、まさにグローバルヘルスの製品開発のあり方を具現化したものなのです。
“今後GHITが、さらにプロジェクトを増やし、資金を増やし、パートナーを増やしていくことを大いに期待しています。”
今後5年から10年先を考えた場合、グローバルヘルスへの貢献のための新薬開発を進める上で、日本はどのような貢献ができるとお考えですか?
まず一つ目として、日本は特別な立場にいるということを申し上げたいと思います。日本の科学技術・知識レベルは非常に高く、これは、日本から何人ものノーベル物理学賞、化学賞、生理学・医学賞受賞者が輩出されていることからも明らかです。日本の科学力はグローバルヘルスの製品開発の基盤となります。二つ目は、日本政府による貢献です。日本政府のリーダーは、政府の立場としても、個人としても、グローバルヘルスに心血を注いでいます。彼らのリーダーシップは力強く、G8/G7サミットや、国連のグローバルヘルスに対する取り組みへの支援を明言しています。三つ目は、製薬業界による貢献です。日本の製薬業界は活気に満ちており、今後も日本の製薬業界は一丸となって研究開発を推し進めていきます。
こうした要素はいずれも、医薬品を通じたグローバルヘルスへの貢献をする上で不可欠です。日本の強みは、これら全てが強力で、積極的に行われていることです。これら三つの要素すべてを兼ね備えた国は世界でもわずかであり、日本は、今後5年から10年でグローバルヘルスR&Dを変革できる絶好のポジションにあると確信しています。
今後、日本独自の能力をさらに強化するために、GHITが果たす役割は何でしょうか?
現在のGHITのパートナーの数、資金、製品開発案件の数を見れば、設立から5年足らずでこれだけのことを成し遂げているという点で、グローバルヘルス分野での躍進は明らかです。今後GHITが、さらにプロジェクトを増やし、資金を増やし、パートナーを増やしていくことを大いに期待しています。
本インタビューに掲載の所属・役職名は、2017年のインタビュー公開時のものです。
- 略歴
- クリストフ・ウェバー 武田薬品工業株式会社 代表取締役社長
兼 チーフ エグゼクティブ オフィサー
2014年4月にチーフ オペレーティング オフィサー(COO)として入社し、同年6月に代表取締役社長に就任後、2015年4月より代表取締役社長 CEO、現在に至る。これまで、多岐にわたる事業や地域においてリーダーシップを発揮。タケダに入社する以前、グラクソ・スミスクライン(GSK)において、GSK ワクチン社の社長兼ゼネラルマネジャー、ベルギーのGSKバイオロジカルズ社CEO、GSKグローバル・コーポレート・エグゼクティブチームのメンバーなど、要職を歴任。また、2008年から 2010年にかけて、シンガポールで GSK アジア太平洋地域担当上級副社長兼ディレクターを務めた。フランスのリヨン大学で薬学・薬物動態学の博士号を取得し、さらに同大学で医薬品マーケティングおよびアカウンティング/ファイナンスの修士号、統計学の学士号を取得。
STAKEHOLDER INTERVIEWSARCHIVES
FUNDING
01
山本 尚子厚生労働省 大臣官房総括審議官
(国際保健担当)
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02
ハナ・ケトラービル&メリンダ・ゲイツ財団
グローバルヘルス部門ライフサイエンスパートナーシップ
シニア・プログラム・オフィサー
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03
スティーブン・キャディックウェルカム・トラスト
イノベーションディレクター
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DISCOVERY
01
デイヴィッド・レディーMedicines for Malaria Venture (MMV) CEO
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02
中山 讓治第一三共株式会社
代表取締役会長兼CEO
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03
北 潔東京大学名誉教授
長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授・研究科長
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DEVELOPMENT
01
クリストフ・ウェバー武田薬品工業株式会社
代表取締役社長 CEO
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02
畑中 好彦アステラス製薬株式会社
代表取締役社長CEO
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03
ナタリー・ストラブウォルガフト顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)
メディカル・ディレクター
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ACCESS
01
ジャヤスリー・アイヤー医薬品アクセス財団
エグゼクティブ・ディレクター
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02
近藤 哲生国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所
駐日代表
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03
矢島 綾世界保健機関西太平洋地域事務所
顧みられない熱帯病 専門官
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