SPONSOR INTERVIEWSGHIT Fundとスポンサー企業が
共有するビジョン
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モリソン・フォースター
合田 久輝
辯護士
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細川 兼嗣
外国法事務弁護士(ニューヨーク州法)
“GHITとの仕事を通じて、普段はあまり見ないような契約を垣間見ています。そして、改めて、契約の多様性を学んでいます。”
モリソン・フォースターとGHITの関わり
合田 モリソン・フォースターは、約130年前にカリフォルニア州サンフランシスコで設立された、歴史ある国際的な法律事務所です。現在はアメリカの西海岸と東海岸を中心に、ヨーロッパ、アジアにも拠点をもっています。1987年に東京事務所が設立され、ちょうど今年で30年になります。体制としては、米国を初めとする日本以外の弁護士が75名ほど、日本の弁護士が45名ほどで、およそ合計120人で運営しています。
細川 日本では、主に最初は訴訟分野で発展しました。その後徐々に専門を増やし、今ではM&A(合併及び買収)、知的財産権、不動産取引、ファイナンスなど、様々な領域の業務を行っています。
合田 弊事務所のシニアカウンセラーも務めるコーヤン・タン(インタビュー当時) がGHITの監事に就任したこともあり、彼を通じて弊事務所との関わりができ、GHITとのスポンサーシップが始まりました。
細川 兼嗣氏
GHITの活動に欠かせない文書の作成
合田 現在までのGHITの仕事は、契約書の確認が大半を占めています。言語(日本語・英語)と法律(日本またはその他の国々)の内容によって担当するチームを決めています。ただ、契約の中には、言語は英語でも内容は日本法に基づくものもあります。そのような場合は複数のチームが共同して取り組んでいます。契約の種類は非常に多岐にわたっており、文書保管関連から投資関連の契約内容の確認を支援させていただいています。
細川 GHITと行った最初のプロジェクトが、インベストメント・アグリーメントという、理事会が投資案件を承認した後に、GHITと製品開発パートナーとの間で交わす契約書の枠組み、雛形を作るというものでした。一般的に契約書の雛形作成は、各項目を慎重にしっかりと吟味して、必要に応じて海外の事務所の専門家を巻き込んで、様々な意見を集めながら成果物に結びつけて行く作業が必要です。実際、GHITの契約書作成に関しても2カ月程度の時間を要する、比較的長い期間のプロジェクトでした。現在は、個別の様々な案件の合意に向けて、スピード感をもって締結まで進めていくことを目標にお手伝いをさせていただいています。
“なかなか市場原理だけでは行き届かないところに対して、資金を補完するために活動するのはとても有意義なことだと思います。”
合田 久輝氏
法律の専門性を生かした社会貢献事業
合田 モリソン・フォースターは、もともとアメリカで設立された法律事務所です。アメリカでは、弁護士は法律を扱う者として当然公益活動を行うべきだという考えが背景にあり、専門性を生かしたボランティア活動(プロボノ)は、積極的に行うことが奨励されています。実際、私がニューヨーク州の弁護士資格を取得した時の登録前の最終面接の際も「弁護士になる以上、プロボノをしっかりやるように」と言われたのを記憶しています。プロボノへの高い認識は、アメリカでは相当広まっているようです。
どのようなプロボノの案件を行うかについては、プロボノコミッティーという所内に設置された委員会で決定します。案件としてふさわしいかどうか、あるいは通常業務への過度の負担とならないかという観点から、最終的にプロボノ活動を行うかの判断がされます。我々の活動の例としては、例えば少数派のための人権を守る団体や、環境保護団体、教育や貧困問題の改善に取り組む団体、震災の心のトラウマに対するケアを行う団体など、様々な組織のサポートをさせていただいています。他には、難民認定の支援にも協力させていただいています。
細川 ほかにも、 団体の設立や支援活動、寄附を集めるファンドレイジングや、設立後に発生した問題解決の支援、また、公益認定の取得のプロセスで生ずる様々な法律問題についてアドバイスするケースもあります。GHITのようにしっかり体制を整えて、すぐ公益認定を取得できる法人ばかりではありません。一般社団法人、一般財団法人としては立ち上がったけれども、公益認定の取得が難しいケースも少なくありません。
新しいタイプの組織とのコミュニケーションを通じて
合田 GHITとの仕事を通じて、普段はあまり見ないような契約を垣間見ています。そして、改めて、契約の多様性を学んでいます。特に先ほどのインベストメント・アグリーメントなど、GHITが締結する契約の中には非常に特殊なものが含まれます。例えば準拠法*1など、他の案件では考えないような技術的な論点をじっくり考える機会になっています。このような論点について、論理的に考えるという機会は珍しく、プロボノ活動として貴重な経験をさせていただいていると思います。
細川 私は本業が証券法です。その分野では主に契約形式がテンプレート化されているため、交渉の必要性を感じることがあまり多くはありません。一方で、GHITのお仕事では、我々が普段お仕事をさせていただいている民間企業などでなく、大学や研究機関や公的機関などとやりとりをさせていただく機会が多くなります。そのような中で、我々が提示した書類に対し、様々な観点からのコメントをいただいたり、交渉が求められたりすることが弁護士としても、とても新鮮です。
例えば、アメリカの大学と契約を締結する際に、その大学から「大学が位置する州法上の規則に基づくと、補償条項*2というのはこれしか出せない。準拠法はこういう書き方でなければならない。」と言われるなど、あまり馴染みのないケースに出会いました。今まで、そういった議論をする機会はありませんでした。このようなケースは、勉強になるので興味深いものです。今後も常に柔軟に対応しようという気持ちを持ちました。私は、弁護士になって15年ほど経ちますが、以前は労働法などを担当していて、スピード感をもって様々な交渉をする場面が多くありました。GHITとの仕事では、そう行った過去の経験を生かしてお手伝い出来るのもやりがいがあります。
私はニューヨーク州法の外国法事務弁護士ですので、海外とのやりとりを中心とした支援をお手伝いしています。GHITの仕事をさせていただいていて非常にやりがいがあるのは、英文の契約書の対応や、日本と海外の準拠法の比較検討など、外国法事務弁護士として自分の専門性を十分に生かせることです。
*1 国際契約の解釈に適用される法律 *2 相手方に生じた損害を賠償することを定めた条項
マネジメントとガバナンスの両立
細川 パブリック・プライベート・パートナーシップ(官民連携、PPP)というモデルを使って、グローバルヘルスという大きな社会問題を解決しようとしているのは非常に面白いと思います。PPPは、失敗例も見かけますが、GHITは大変よく考えられて発足した団体だと感じます。通常関係がないような団体や当事者を面白い形で結びつけて、協業の枠組みをつくるのは、個人的にとても好きですし、私の価値観にも合致しています。
合田 インベストメント・アグリーメントを見るときに思うのですが、普段あまり考えたことがないような熱帯病などの病気に対する製品開発に対して、私の仕事が少しでも役に立つと良いなと思います。
また、GHITの昨年の年次イベント(アニュアル・パートナーズ・ミーティング)に参加させていただきました。会が大盛況だったのを見て、GHITの取り組みがかなり成功していることを感じました。成功の要因として、活動の母体として大手の製薬会社と、大変高名な財団、そして国が関与され、しっかりした団体により運営されているところが大きいのではないかと思います。公益的な活動を行う中で、本来の活動内容に加えて、きちんとしたマネジメントまで行うことは容易ではないことと思います。GHITは、ガバナンスがしっかりしているところがすばらしいところだと思います。
細川 昨今、世界で発生している様々な問題に対して、どうやって解決策を見いだすか。さらに、社会的なインパクトを生み出し、それをどうやって拡大するのかが今後のGHITの課題だと思っています。国際的な問題の解決には、PPP(官民連携)や、アライアンス(提携)など、様々な課題解決の形があります。GHITは、グローバルヘルスという世界規模の非常に大切な課題に官民連携の新しい形を作って取り組んでいます。そのこと自体が素晴らしいことですし、非常に価値があると思います。
次の5年間に向けた長期的なサポート
合田 なかなか市場原理だけでは行き届かないところに対して、資金を補完するために活動するのはとても有意義なことだと思います。これからの課題としては、今後さらに規模を拡大していくとなると、投資やそれ以外の契約関連も忙しくなってくると思います。我々がお手伝いできるところがあれば、ぜひ今後も関わっていきたいと思います。
細川 現在、我々はGHIT の法務全体を支援させていただいています。しかし、今後GHITがスケールアップしていく過程で、我々の支援を必要としなくなる時期がいつか来るでしょう。でも、それはそれで良いと思うのです。なぜなら、これは全ての組織が歩むべき道だからです。徐々に組織が自立して、持続可能な形で運営を行うことは、組織の成長を考えると、自然な流れです。もちろん私たちが色々とお手伝いができるのは非常に光栄で、プロジェクトも興味深いですが、GHITの内部体制やガバナンスをさらに強化していくという意味では、ゆくゆくGHITが自立するためのサポートをする視点も大事だと考えています。
合田 アメリカでは、弁護士として優秀な人の中にはNPOやNGOに行きたいという人も多く、これらの組織における法務部門が充実している傾向があります。長期的な目標として、GHITが拡大する中で、組織の中にそのような人材を確保することが必要になってくることもあるでしょう。そのような側面でも、我々で何かお手伝いできることがあれば嬉しいと思っています。
本インタビューに掲載の所属・役職名は、2017年のインタビュー公開時のものです。
- 略歴
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合田 久輝
辯護士
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細川 兼嗣
外国法事務弁護士(ニューヨーク州法)